ルアノ地区でのMobile clinicに参加して(三重大学医学部6年生)-1

ルアーノ地区でのMobile clinicに参加して
三重大学医学部6年生 若林えり子

私は今回、2回目の参加でした。前回は3年前、私が2年生の時でした。その時の私は医学知識も体力もなく、見たことも経験したことのない言葉が通じない環境に圧倒されて、無力でした。村の子どもたちと交流することで精一杯でした。何を得たかと言われると、これほどインフラが整っておらず、医療資源のない環境にも人々が生活していて、多くの人々が医療を必要としていることを知ったまででした。
今回は、きちんと役に立って、学びを得て帰るということを目標にしました。前回参加しなかったパッキングの作業から参加させていただきました。ザンビアの医療の現状、ルアーノ地区の現状、mobile clinicの活動の歴史等を教えていただき、勉強になりました。パッキングをお手伝いさせていただく前は、物品を準備することの大変さについて微塵も考えていませんでした。しかし、実際にしてみると大量の薬品、物品の現在の数の把握と補充は大変で、これをいつも2人でしているということを聞いて驚きました。また、基本的に無料で医療を提供されており、先生が経費のやりくりや値段交渉にいかに苦労されているかを知り、改めて医療はお金がかかるものであると気づかされました。どんな小さなものでも医療資源を大切にしていかなければいけないと思いました。
mobile clinicにて、前回と同じ地区であるルアーノは大きく変化していました。以前は井戸がなく、レンガの建物も1件しかなくて、藁ぶき屋根の木で作られた建物があり、乳児検診は木に秤をぶら下げて外で行われていて、トイレもありませんでした。今回は井戸があり、診察はすべてレンガで作られた建物の中で行われていました。この変化を見て、前日のパッキングの時に先生がルアーノ地区の苦労された話と村に井戸やトイレや新しい建物が出来たことをとても嬉しそうにお話しされていたことが思い出されました。地道な努力でここまでこのmobile clinicを少しずついい方向へもってこられたのだと思いました。
今回私は、受付で名前、血圧・体温・体重測定のお手伝いをし、時間を見つけて全体的に何をされているのかを見学した後に、最後に山元先生の診察見学をさせていただきました。私が最も印象に残ったことは、妊婦検診と山元先生の診察です。
ある1つの建物で高齢の助産師が1人で、妊婦と学校に通っているような女児たちを診察し、family planningの相談に乗っていました。全体的に若い女性、妊婦、子連れの母親たちが多い印象でした。前回きちんと見ることが出来ていたのかはわかりませんが、前回も子連れの母親や子どもが多いという印象を持っていました。妊婦検診やfamily planning、女児の検診のために1つの建物が用意されていることや多くの妊婦や子どもを連れた母親が来ているところを見て、やはり母子保健は医療の原点の1つであると感じました。
私たちが参加した日はとても患者の人数が多く、山元先生は昼食抜きでずっと診察を行っていらっしゃいました。そして、夕方頃は西日が強くレンガでできた建物の屋内はだいぶ蒸し暑く、砂埃でとてもきれいとは言えない環境でした。そんななか全く休憩せず、1人1人の患者に丁寧に向き合い、診察をされていて、最後の患者を診た時には18時になっていました。最後1人の患者は1歳くらいの子どもで聴診器を当てるだけで泣き叫び、呼吸音が聞きとれないような状態でした。一度は聴診が難しいと診察を終えようとしていたなか、外に出てお母さんに抱っこされて安心して泣き止んでいるところを見逃さずに後ろからそっと当てている姿に、感銘を受けました。
ルアーノを出発したのが18時30分と遅かったことに加えて、帰り道に車のトラブルが発生して帰りが遅くなってしまいました。高齢の助産師さんのお家に着くと息子さんが出迎えてくれました。息子さんが夜遅くになっても帰ってこなくて心配したよと話してくれました。たくさんの地元の人たちの支えがあってこそ成り立つのだと気付きました。また帰り道に山の中で脱輪して動けなくなった車をmobile clinicからの帰り道でたまたま通りかかった人と一緒になって車を動けるようにした時に先生が地元の人と抱き合って喜んでいる姿が印象的でした。山元先生はザンビアの人たちが好きだからこそこのお仕事を続けられているだろうと感じました。地域医療とは何か、何が大切であるのかについて、大学で学んできた気持ちでいました。しかしこれらの光景を見て、地域医療において重要なことは地元の人の理解と協力を得ること、その土地、そこに住む人たちを好きで困っているなら何かしたいという思いがあることがとても大切なことであると、実感しました。
今回目標を達成できたのかはわかりませんが、以前よりは少し役に立つことが出来たかと思います。この感想文では書ききることが出来ないほど多くの学びがあり、今後の医師人生を送る上で重要な糧を多く得ることが出来ました。貴重な経験をさせていただきありがとうございました。

山元先生へ

先日はモバイルクリニックに同行させて頂きありがとうございました。無事日本へ帰国し、冬に向かって日々寒くなっていくザンビアでの1ヶ月を懐かしく思い出しています。
今回の実習で印象深かったのはファミリープランニングです。今までファミリープランニングとは、「女性が社会的自己実現を追求する中で、時間や家計の余裕と子育てのバランスをとるもの」だと考えていました。しかしモバイルクリニックの助産師から、「ファミリープランニングにより母体を休ませることで女性が長生きできるようにする」のが目的であると聞き、新鮮でした。ザンビアでは多産が一般的であると聞いていたので、母体の健康を考慮することが浸透していたことに驚きました。
ボランティアの方々と一日を過ごして「自分たちの健康を自分たちで守る」という思いが伝わってきました。山元先生がいらっしゃらないときにもできることをし、それによりマラリアの死亡率が減るなど目に見える形で結果が現れるのは素敵なことだと思いました。UTHで救急外来をローテートした時に、患者本人は自分の病気や怪我に我関せず、という方々がいらっしゃったので病気に対する考え方が日本とは異なるのか?と不思議に思っていましたが健康に対しての意識はどんな文化背景でも、人それぞれなのですね。
最後に、先生へ二つ質問があります。
なぜ日本の僻地ではなくザンビアを選ばれ、継続されているのですか。自治医科大学のご出身と伺っていますので、日本の僻地医療についても実際に先生ご自身が体感されていると存じます。日本では「僻地」と言ってもドクターヘリや他の医療資源があり、ルアノやニャンカンガ程の医療過疎ではないのでしょうか?
ARTにて陽性反応が出た妊婦がいましたが、こういう場合には出産を帝王切開にしたり人工乳保育にしたりするなどの、母子感染予防教育や対策はされるのでしょうか。UTHで実習した際に自宅出産が稀ではないと聞きましたので、病院から遠いルアノ地区ではどのように対応されるのか興味が湧きました。
お時間のございます時に是非お返事を宜しく御願い致します。