Mobile clinicに同行して(2017年4月26日Luano地区)-1

Mobile clinicに同行して(2017年4月26日Luano地区)
藤田保健衛生大学 医学部医学科6年 森浦哲平
 今回私が同行させていただいたLuano地区は首都ルサカから北に40km東に60kmほど行った谷にある小さな村だ。凹凸の激しい泥道や岩道を越え、川を渡り、道中診療を求める人を診ながらランドクルーザーを走らせる。ルサカから距離こそ離れていないが、この悪路で片道5時間強ほどかかった。診療で寄った家々の一つは、地面に突き刺した丸太と岩でできた壁に茅葺を乗せただけの簡素なものであり、他の家々も似たり寄ったりか、それより酷いくらいの家も多くあった。マラリアが流行する地域の中にあって、これらの簡素な家々にはマラリアを媒介するハマダラカが入って来るには十分すぎる隙間があり、また、蚊帳も持っていない。住人は常にマラリア感染の危険と隣り合わせである。マラリアの簡易検査で陽性となった患者に抗マラリア薬や解熱鎮痛薬を処方する。Clean waterで飲む指示をするが患者は濁った水を持って来て薬を飲む。検査で使った医療廃棄物を捨てるためかToiletはあるかと毎回先生は尋ねていたが、ほとんどの家にはなく、このあたりはインフラという言葉とは無縁の場所なのかもしれないと感じた。当然のことかもしれないがここには時計もないので先生からの指示も8時間後に次の薬を内服ではなく、太陽が沈む前にと仰っていたのが印象に残った。ザンビアの公用語は英語であるが、多くのローカルランゲージが存在し、教育レベルの高くない地区ではローカルランゲージしか話せない人も多い。こちらが使う英語を通訳してもらいながら診察をするので言語の壁はより大きく感じ、服薬コンプライアンスも良さそうではないという印象を受けた。Luano地区での業務は乳児の体重測定や妊婦健診、マラリアやエイズの検査、そして先生方の診察であったが、私は乳児、成人の体重やバイタルの測定を手伝わせて頂いた。ザンビアの公立病院での医療費は全て国持ちで、無料で受けられるが、mobile clinicでの医薬品類は全て山元先生たちORMSが集めた寄付金で購入しているもので、非常に限られた医療資源の中、山元先生は診療を行なっている。業務を手伝っているうちにすぐに数時間が過ぎ、最後に先生の診察を見学されて頂いた。その中で特に印象に残ったのは、重症肺炎の子供の症例だ。異常呼吸音は聴取できずとも早い呼吸とchest indrawingから重症肺炎と診断し、抗菌薬を処方していた。問診と身体診察のみでいわゆる検査が出来ない中で、医者に何が求められ、何ができるのか、日本の大きな大学病院では見ることのできない僻地医療の現実を垣間見た気がした。
 ルサカへの帰り道でも車を止め、マラリア疑いの子供を診た。簡易キットで陰性となっていたが、マラリアの可能性を否定できず、クリニカルマラリアとして抗マラリア薬を処方していた。医療アクセスが悪いこの地区でマラリアに罹ることは死に繋がることがある。多剤耐性のマラリアが増える現状があり安易に抗マラリア薬を処方できない一方で、今回のように難しい判断を迫られることがあるようで、先生も大変悩まれている様子であった。
 この度、先生の主宰されるMobile clinicに参加させていただきありがとうございました。ザンビアに来て一ヶ月間UTHでの実習を通し日本の医療とのソフト面、ハード面と様々な違いに驚き悩まされてきましたが、今回のMobile clinicはそれらとは完全に異次元の環境での医療で、多くのことを学びました。医療アクセス、言語、道路、住居や水道、トイレといったインフラ、我々日本人が当たり前に享受している全てが当たり前ではない世界で医療をするのは単に医学を勉強するだけでは全然足りません。検査が殆どできない中での無償の診療を見学し、医師や医療の原点のようなものを感じました。この先研修医、そして専門に進んで行きますが、mobile clinicで感じ、学んだことを時々思い返し、励みたいと思います。繰り返し、この度はお忙しい中、mobile clinicの参加を受け入れていただき、本当にありがとうございました。

モバイルクリニックに参加して
藤田保健衛生大学6年 青山里穂

今回、山元先生のルアノ地区の巡回診療に同行させていただきました。「険しい道のりを何時間もかけて地域に行き、診療をする」と言葉では聞いていたのですが、正直全く想像がつかない状態で、巡回診療当日を迎えました。

朝6時に出発し、大きなランクルに揺られること、約6時間。山元先生と私たち学生の他に、日本人の研修医の先生、専属の現地の医師、看護師、ドライバー二名で診療に行きました。道中、ふと外を見ると多くの子供たちを抱えた一人のお母さん。ランクルを停めて、山元先生が降り、事情を聞く。熱が下がらない子供たちがいるそうで、次々とマラリアの検査を行なっていく。結果に応じて薬を処方されていました。英語が伝わらないことが多く、現地の医師が現地の言葉を使って山元先生が指示されたこと(薬の処方の時間など。時計がないので、日が沈むころに飲むように、と伝えられていたのも大変印象的でした)をお母さんに伝えていました。

ルアノ地区に到着すると、多くの患者さんが私たちの到着を待ち構えていました。ルアノ地区の現地のボランティアの方も準備をして待っていてくださいました。現地では、山元先生、現地の医師の外来、血圧測定、マラリア検診、助産師さんの妊婦検診、出産後検診が行なわれていました。どのセクションも見学させていただいたのですが、最も印象的だったのが山元先生の外来です。ここでは物資や器具も限られているため、検査はできません。病歴や身体所見である程度診断をつけて、処方をしていきます。WHOが出している、そのような地域医療に特化したプロトコールを見せていただきました。大変印象的でした。 このような機会をいただき大変感謝申し上げます。ありがとうございました。

森浦哲平1

森浦哲平2

青山里穂